|
10月5日から7日までイタリア・クレモナで開催された弦楽器の見本市、モンド・ムジカの視察に行ってきました。クレモナはストラディヴァリやガルネリらを輩出した、ヴァイオリン製作の聖地と言える町で、現在でも多くのメーカーが工房を構えて製作に励んでいます。弦楽器製作を学ぶ学校もあり、世界中からその伝統と技術を学ぶために学生が集まっています。
私もシャコンヌ入社前に、ここクレモナの製作学校で楽器製作の勉強をしていました。クレモナを訪れるのは卒業以来、4年ぶりになります。その当時から毎年この見本市は開催されていましたが、以前よりも規模が大きくなっている感があります。
見本市の会場は市街地中心部からはずれた大きな展示会場で、世界中のメーカー、ディーラーなどが出展し、大変な賑わいでした。楽器は新作が多いもののオールド、モダンから量産品まで、他にも楽器製作用の木材・道具、フィッティング、弦や楽譜に至るまで、弦楽器に関するあらゆるものが展示・販売されていました。
出展内容は私が学生の頃と大きくは変わっていませんが、その頃とは私の視点が大きく変わったと思います。
まず、学生の時には、自分の製作に役立つもの――木材や道具類――をひたすら探していました。会場に来るたびに、材料などを大量に買い込んで帰ったものです。今回も会場では、製作学校の学生たちが、木材を熱心に物色している姿が多く見られました。
楽器では新作やモダン、つまり自分がクレモナで学んでいるスタイルの楽器と、同じ系統の楽器を中心に見ていました。オールド楽器は、現代の製作とは隔絶された別世界といった感があって、それほど熱心に見ていなかったように思います。これは私だけのことではなく、製作をしている者の多くが似たような見方になっているのではないかと思われます。自分の楽器製作に直接参考になるものに、興味が集中してしまうのです。
一方、今回はもっと全体的に、弦楽器業界の様子、どのような楽器が実際に扱われ流通しているのか、という点に注意するようになりました。特に世界中のディーラーが持ち寄る楽器の質は、シャコンヌと比べてどうなのか、という点は非常に気になっていました。
シャコンヌでは近年特にオールド楽器の研究が進んでおり、オールド楽器とモダン以降の楽器との違いについても様々な機会に皆さんにお伝えしています。この見本市はシャコンヌで調整しているオールド楽器と、一般的にこの業界で流通している同等の楽器との違いを確かめる、良い機会になりました。
様々なディーラーによって出品されているオールドの楽器を見て感じたのは、ほとんどの楽器は良い音がしていないということです。見栄えを気にして、高価なものとして骨董品のように楽器を扱っているだけで、その能力を最大限に引き出そうという調整がなされていないようです。シャコンヌで、ニスも含めて徹底的に修理・調整している楽器の質の高さを改めて実感しました。値段も全体的に想像以上に高く、価格と質のバランスが取れていない、という点も気になりました。実際に演奏に使う「道具」としてはあまりにも高価になっているようです。
今回クレモナでは、以前から付き合いのある製作家やディーラーとも多く会うことができました。特にモラッシーや彼の仲間の製作家たちには食事にも招待していただくなど、大変お世話になりました。彼らには、オールド楽器のニスや音響について、シャコンヌで研究していることを伝えました。現代のクレモナのスタイルとは大きく違うその方法を、彼らが受け入れていくのか。モダン以降の伝統を打ち破り、オールドの原点に回帰できるかどうか。彼らも興味を持ってくれているようなので、今後に期待しています。(岡田)
出張・イベント報告記事一覧
2007年11月 東京弦楽器フェア報告
2007年10月 アンドレア・アマティ生誕約500年記念展示会
2007年10月 モンドムジカ報告
2007年10月 クレモナ出張報告
2007年5月 記念コンサート「シャコンヌ音楽祭」報告
2006年12月 記念コンサート「名器の響き」報告
2006年11月 東京弦楽器フェア報告
2006年9月 ロンドン出張報告
2006年7月 ロンドン出張報告
2006年2月 ロンドン出張報告
2006年1月 北京・上海にて展示会開催
|